自己破産をすると生命保険は管財人によって解約されてしまう!?
保険の契約者が自己破産をすると、貯蓄型保険で解約返戻金が20万円を超えているものは破産者の財産とされ、原則として管財人によって解約されてしまいます。
しかし、被保険者や死亡保険金の受取人が破産した場合は、生命保険が解約になることはありません。
裁判所次第では、自由財産の拡張の申し立てをすることによって、他の財産とあわせて99万円以内の生命保険であれば、多くの場合解約せずに済みます。
自由財産とは、自己破産手続きにおいて処分されない財産のことをいい、自由財産の拡張とは、裁判所の決定により自由財産の範囲を拡大してもらう手続きのことをいいます。
通常、現金99万円までが自由財産として認められますが、自由財産の拡張が認められれば、預金口座、自動車、退職金などの一部の財産について、目安として合計99万円までであれば保持が認められます。
自己破産した場合の生命保険の扱いについて、自己破産をすると生命保険は強制的に解約されて債権者に配当される、ということがよく言われています。これについては、
- 掛け捨て保険の場合
- 保険を解約した場合の返戻金が20万円以下の場合
- 保険の契約者以外が破産した場合は、
自己破産を行っても生命保険の解約にはなりません。
例えば、父が娘を医療保険に入れる場合、父が保険の契約者で娘が被保険者になるので、娘が破産しても父の保険が解約になることはありません。
また、生命保険には解約返戻金があるので、保険の契約者の財産としてみなされます。そのため、被保険者や死亡保険金の受取人が自己破産しても、保険を解約する必要はありません。
破産者が保険の契約者で、仮に解約返戻金が80万円ある場合は、自由財産の拡張を申し立ててみる方法があり、総額99万円基準を採用している裁判所だと、全ての財産を合わせて総額99万円までの財産は、保有を認められます。
手持ちの現金、預金、そして、生命保険の解約返戻金をあわせて99万円を超過してしまう場合は、超えた金額を代わりに現金で管財人に渡せば、生命保険の解約をしないでも済む可能性が高まります。
その他には、生命保険の契約者貸付を使って弁護士費用を捻出して、解約返戻金を削る方法があります。
保険契約者の生命保険は破産者の財産になってしまう
貯蓄性のない純粋な掛け捨てタイプの生命保険は、自己破産によって解約になることはありません。ここで紹介する生命保険とは、終身保険・養老保険といった貯蓄タイプのものをいいます。
生命保険には、
- (1)保険契約者、
- (2)保険料支払者、
- (3)被保険者、
- (4)保険金受取人
の4者が関与します。
(1)は保険の名義人で、保険を解約したときに解約返戻金を受け取る人です。
(2)は毎月の保険料を支払っている人で、基本的には保険契約者と同一人物です。
(3)は病気や入院で保障がもらうことができる人で、被保険者が死亡すると遺族に保険金がおります。
(4)は被保険者に死亡など万が一のことが起こると、保険金を受け取れる人です。
生命保険のよくあるパターンとしては、夫が万が一のときに家族の生活が困らないように、夫を保険契約者、保険料支払者、被保険者として、妻を保険金受取人として加入しているケースです。
この場合では、夫が自己破産した場合には、生命保険が解約の対象になる可能性がありますが、妻が自己破産しても、夫の生命保険が解約になることはありません。
これは妻が被保険者の場合でも同様で、もし妻が病気や怪我をしたときには、妻が保険金の受取人になるわけですが、あくまでも保険は保険契約者である夫の所有物なので、妻が自己破産しても夫の生命保険は解約されません。
もうひとつよくあるパターンとしては、保険契約者を父親、被保険者を子供、保険金受取人を父親とした終身保険に入っているケースがあります。
被保険者が若いと利回りがいいので、貯蓄目的で加入し、将来的にこの保険を名義変更して子供に渡す、といったパターンです。
この場合、保険契約者と保険料支払者が父親なのであれば、子供が自己破産を行ったとしても、父親名義の保険なので解約されません。
自己破産するのが父親なのであれば、この生命保険は財産とみなされるので、子供のための貯蓄であっても解約されます。
「保険契約者」と「保険料支払者」が別の場合
保険契約者が保険支払者になるのが通常ですが、中には、
- (1)夫が妻の名義で保険契約をしているが夫が保険料を支払っている、
- (2)子供の名義で両親が保険契約をしていて、両親が保険料を支払っている、
という変わったケースもあります。
(1)のケースで夫が自己破産した場合には、保険契約者はあくまで妻なので、生命保険は解約しないで済むように思われますが、実際にはグレーゾーンであり、破産管財人に厳しく指摘されることがあります。
保険支払者が破産し、保険契約者が別人である場合は、先ほどの例でいえば保険支払者の夫が自己破産し、保険契約者が妻である場合です。
基本的には、生命保険はあくまでも妻の財産であり、破産者である夫の財産ではないので、生命保険は解約されないのが原則です。しかし例外があり、
一部の裁判所では、同居人親族の保険の解約返戻金証明書や、保険証書の提出が求められることがあります。
破産者が保険契約者になっている保険だけでなく、他人名義の保険であっても、破産者が保険料を支払っているものを、資産目録に記載するように求める裁判所もあります。
実際には、管轄の裁判所や管財人によってケースバイケースで、保険料を一部支払っていたことがあるか、払込期間中の保険料をすべて支払っていたのかによっても異なります。
破産者の財産ではないと認められたとしても、支払っていた保険料が贈与扱いとされると、破産管財人から一部の返還を求められることもあります。
先ほどとは真逆で、保険契約者が破産し、保険支払者が別人であるケースではどうでしょうか。
例えば息子名義の保険をかけて、父親が保険料を支払っていたけれども、息子が自己破産してしまった場合がこれにあたります。このケースでは原則どおり、解約返戻金は保険契約者のものなので、生命保険は解約される可能性が高いです。
解約返戻金の金額によって変わる
原則として、生命保険の解約返戻金の額が20万円を超過した場合には、破産管財人が選任されて管財事件になります.。
管財事件とは、破産者に一定額以上の財産がある場合の破産手続きのことで、通常20万円以上の財産を持っている場合には、それを現金に清算して、債権者に分配する手続きが必要になります。
破産者が財産をほとんど持っていない場合は、特に清算手続きをする必要がないので、自己破産は開始と同時に終了し、これを同時廃止といいます。管財事件になると生命保険は債権者のための財産となり、管財人により取り消されて債権者に配当されます。
破産手続きで自由財産になるのは、原則として99万円未満の金銭と、差押禁止財産の2つだけです。
20万円未満の保険や車が自由財産になるというルールはありません。20万円を超える財産を持っているかどうかは、破産手続きを同時廃止で進めるか、管財事件にするのかという判断基準です。
生命保険が同時廃止になるかどうかと、自由財産になるかどうかは別の話です。
保険は、本来は金額にかかわらず自由財産ではないので、破産手続きを管財事件で進めると決まれば、原則は20万円未満の保険も処分対象になります。そのため、
裁判所に提出する資産目録には、解約返戻金が20万円未満の保険もすべて記載し、自由財産の拡張を認めるかどうかが判断されます。
自由財産の拡張にあたっては、20万円基準を採用を行っているところと、99万円を基準に採用しているところが裁判所によって異なります。
20万円基準というのは、個別の財産ごとに20万円を基準に拡張を認めるかどうかを判断する方法です。この基準では30万円の預金がある場合や、解約返戻金が20万円を超える生命保険は自由財産の拡張は認められません。
99万円基準というのは、財産の総額が99万円までなら、まとめて自由財産の拡張を認める方法です。この場合は、例えば生命保険の解約返戻金が70万円あったとしても他の現金、預金、車などの財産が29万円未満であれば、自由財産の拡張を申し立てることで生命保険はそのまま継続できます。
契約者貸付を利用して解約返戻金を減らすことは出来るのか?
貯蓄型の生命保険では多くの場合、契約者貸付が用意されています。
契約者貸付とは、解約返戻金を担保として保険会社からお金を借りることができる制度で、限度額は解約返戻金の7〜8割が相場になっています。
契約者貸付は、自身の資産である解約返戻金を前借りしているだけなので、借金ではありません。資産目録に記載する保険の解約返戻金と埋め合わせするかたちで記載すれば大丈夫です。
解約返戻金と契約者貸付は相殺できるので、例えば生命保険の解約返戻金が40万円あり、契約者貸付が30万円あるときは、事実上の資産額が10万円と裁判所に見なされますので、他に高価な財産がない場合は、事実上の資産額が20万円未満となるため、同時廃止として進められる可能性が高いです。
明らかに換価を免れるためだけに現金化したのであれば、預金等の直前現金化と同じで債権者を害する行為になるので、保険の解約返戻金との相殺が認められない可能性があります。
しかし、自己破産のための裁判所への予納金や、弁護士費用を支出する目的であれば、契約者貸付を利用して資金を準備するのは問題ありません。
この方法は、生命保険を解約せずに自己破産の手続き費用を用意できるため、多くの弁護士によって提案されています。
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