自己破産すると国民年金や厚生年金が受給できなくなるってホント?
借金の返済ができなくなった場合、債務整理の一つに自己破産するという方法があります。
裁判所に破産を申し立てて借金を帳消しにすることができるという最大のメリットがある反面、債務者が所有している現金や預貯金をはじめ、換価できる不動産や自動車などほとんどの資産を手放さないといけないなど、さまざまなデメリットがあります。
では、国民年金や厚生年金などの公的年金の受給はどうなるのでしょうか。
年金は老後の生活の糧であるだけに、今まで通り受け取ることができるのか心配している人も多いと思います。そこで自己破産した場合、年金の差押えと受給権について債務者にどのような影響を及ぼすのかを見ていきます。
自己破産で年金が差押えられる!?
自己破産すると預貯金や不動産などすべての財産は債権者の回収にあてられるため、差押えられてしまいます。
このため、国民年金や厚生年金などの公的年金も自己破産することによって差押えられて、受給することが不可能ではないかと思っている方も多いのではないでしょうか。
つまり、年金を一度受給する権利を得ると、失権事由に該当しない限り受給者本人だけが行使することができ、かつその権利を他人が代わって自分のものにすることもできません。
年金は、受給者の生活利益を保護する必要があるということから自己破産をしても差押えされないしくみになっています。
よって、自己破産手続き後だけでなく、手続き中であっても問題なく年金を受け取れます。
しかし、年金でも「個人年金」は、法的に守られていません。
つまり、個人年金は個人が自分の意思で老後の生活設計や貯蓄のために、任意で民間保険会社と契約しているので差押えの対象となります。
また公的年金の受取を銀行口座にしている場合、注意しなければならないことがあります。まず、年金の受取口座が差し押さえの対象になっている場合は、振り込まれた年金はすべて没収されます。
そればかりか、口座に入金されたお金は、年金としての扱いではなく個人の現金とみなされるため、銀行に債務返済として差し押さえられる可能性があります。
また、銀行からお金を借りている口座があればその口座は凍結するため、お金の引き出しができなくなります。
そのため、自己破産を行うときは、事前に凍結されそうな口座と年金専用口座を分けておくと良いでしょう。
もしすべての銀行口座が凍結され差押えられているならば、新しく年金受け取り専用の銀行口座を作り、管轄の社会保険事務所や役所で新しい受け取り銀行口座の手続きをする必要があります。
国民年金は差押えの対象ではないのでご安心ください
自己破産しても、前述した通り国民年金は退職金などと異なり、差押えの対象にはならないため、年金の受給権を担保にする及び譲渡することは法律で受給権の保護の条文で守られています。
ここで一つ気になる点があります。それは、退職金についてです。国民年金と同様に、退職金は老後の生活の糧でもあります。そう考えたときに、
退職金は、破産手続き開始決定時点ですでに退職していて退職金を受け取っている場合と、退職していなく退職金がまだ支給されていない場合によって差押えの割合が違います。また退職金の金額でも違ってきます。つまり、退職金は資産(債権)として扱われます。
破産手続きに入る前の段階ですでに退職金を受け取っている場合は退職金という扱いではなく、手元にお金がある場合は「現金」として、また銀行などに預けていれば「預貯金」として扱われます。
したがって、資産金額で評価されるので総財産を対象に、現金は99万円を超える範囲、預貯金は20万円を超える範囲の金額が処分(配当)対象になります。
一方、破産手続き開始決定時点で、まだ退職金が支給されていない場合は、開始手続きする時点で退職したとして受け取ることのできる見込み金額を会社で算出してもらい、「退職金見込額証明書」を発行してもらう必要があります。
処分内訳は、その見込み金額の4分の1に相当する金額が処分対象となり、残りの4分の3は差押え禁止財産とされます。
また、退職金というのは退職後の生活を維持するためのものなので、法律上4分の3は守られていますが、残りの4分の1は、債権者への配当にあてられます。
しかし、本人が退職しない以上お金は貰えないので、実際には退職金を受け取れるとは限りません。そのため実務上、退職金見込額の4分の1ではなくその半分の8分の1を財産として評価し、さらに8分の1相当額が20万円未満であれば手元に残るとされているケースが多いです。
年金の受給権は「破産財団」に属していない
「破産財団」とは何なのでしょうか。名前からして破産者の財産を管理する組織団体のことを言うのではと思ってしまいますが、そうではありません。
「破産財団」とは、破産者が破産手続き開始時において所有している財産を裁判所が指定する破産管財人(通常は弁護士が選任)によって換価処分されて、破産債権者の配当にあてられる総財産のことをいいます。
主な財産には目につきやすい不動産や自動車のほか、預貯金、退職金、生命保険の解約返戻金や、目に見えない財産として、消費者金融やクレジット会社などからお金を借りて本来支払わなければいけない利率以上の利息を支払っていた場合に、貸金業者から取り返せる「過払い金」が挙げられます。
まず、自己破産の手順には「同時廃止」と「管財事件(少額管財)」の2種類があります。
同時廃止とは、債務者の財産が少なくて債権者に配当ができないことが破産手続開始の申立の時にわかっている場合、財産の精算手続きを省略して破産手続開始決定と同時に破産手続きを終結することをいいます。
これにより破産者の持っている財産は、そのまま自由に使用することができます。
それに対し管財事件は、裁判所によって違いますが、一般的には債務者の個別財産(現金・預貯金・自動車・保険の解約返戻金など)に一つでも20万円以上の財産があるときには、破産手続きの決定と同時に破産管財人(弁護士)が裁判所より選任されて破産手続きが開始されます。
それを管財事件(少額管財)といいます。管財事件になった場合、自己破産手続開始決定時点を基準に、すべての財産は法律に基づいて「破産財団」「自由財産」「新得財産」に振り分けられます。
したがって、自己破産手続き開始時に破産者が所有しているすべての財産は、破産財団に組み入れの対象になるわけではありません。
破産者が最低限の生活ができるように、一定の範囲について破産手続き開始決定後でも破産財団に属さずに、破産者が自由に管理、処分できる財産を保有できます。
これを自由財産といいます。具体的には、99万円以下の現金、差押えることのできない生活に必要な衣類や家具、家電などの差押禁止財産や、給料や退職金・年金の受給権などの差押禁止債権が挙げられます。
また年金をはじめ給料など破産手続き開始後に破産者が取得した財産は「新得財産」といって処分対象になりません。このように年金の受給権は、破産法で「破産財団」に属さないように破産者を守っているのです。
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